新宿の雑踏で
たしか20才くらいの頃だったと思う。
お察しの通り、だいぶ昔の話だ。
私はその日、アルバイト先に向かうために新宿通りを歩いていた。
たしか日曜日だったような気がする。
アルタが見える広場よりも少し行って、
新宿高野のあたりで若い女の人に、すいません、と声をかけられた。
同じくらいの年だろうか。
女の人というよりも、女の子と呼んだ方が似合う。
私よりも年下かも? 何だろうと思ったら、
「アンケートをお願いしたいんですが」
とのこと。
「急いでいるので歩きながらでもいいですか?」
と全く立ち止まることなく答えると、それでも良いと言う。
学生さんですか、おつとめですか、
年齢は○才~○才くらいですか、
などから始める幾つかの質問をされて、
(さあ何だろう。何のセールスなのか、はたまた宗教の勧誘か・・・)
と思いながら、まったく歩くペースを落とさないで、
さくさく歩きながら答えていくと、
「このあと、お時間は・・・ありませんよね。」
と言われて、苦笑しながら
「はい。これからバイトです。」
と答えると、相手の人はこう言った。
「アンケートはこれで終わりです。
あの、東京に出てきてから、こんなに優しく話してもらったのは初めてです。
ありがとうございました。」
へ?
と思った私に彼女は深くおじぎをしてちょっと立ち止まった後、
雑踏にまぎれて分からなくなった。
結局、何のアンケートだったのか、いや、
何のキャッチセールスにつながっていたのかは
分からないままだった。
それからバイト先に急ぎつつ、歩きながら考えた。
どういうことだろう。
私はごく普通に話をしただけだ。
人に話しかけられているのに立ち止まりもしないで、
むしろ失礼なくらいだ。
彼女は東京に来てからどのくらいになるんだろう。
どんな日々を送っているんだろう。