「帰ってきたヒトラー」
えー、新年早々、一本目がこの本の紹介ってのはどうなんでしょうね。
今年のお正月も娘の下宿で独りぼっちで迎えたわけですが、
ひとりポツンと部屋にいて退屈してガサ入れなどしないように、
娘が「退屈したらこれをどうぞ」と、本を渡すわけです。
あの娘が読書!あんなに読書をバカにしていた娘が読書!
小説なんてどうせ作り話でしょ、と言っていた娘が
フィクションの本を自腹で買って読む(それも最後まで)とは!
いやー人体の不思議、ヒトの成長って素晴らしい。
・・・などと思いながら、いったいどんな本を買って読んだのかね、
という興味本位で読み進むのですよ。
ちなみに娘はみっちり巫女バイト、おっと間違えた「助勤さん」である。
ダンナはダンナ実家に行って普段できない場所の掃除をして、
年が明けたら甥っ子たちにお年玉をあげてくるという任務に携わっている。
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そんなわけで「帰ってきたヒトラー」。
死んだはずのヒトラーが、なぜか現代のドイツの公園で目を覚ます。
なんかよく覚えてないけど、着ている制服がガソリン臭い。
いったいここはどこだ・・・?
そんなところから始まる話で、最初から最後まで一人称で、
本人の目から見た物語が語られる。
本人はあくまで本物のヒトラーなんだけど、
周囲の人たちは見た瞬間に、ソックリさん芸人として扱うわけです。
そりゃそうだよね。
対象になりきるタイプの芸人という扱いで、
当人はいたって真面目に本気で本音の話をしているんだけど、
全て「素晴らしい成り切りっぷりだ」と評されて、
生来の演説のうまさを生かして、YouTubeで人気になるのです。
年取ったおっさんの昔語りが、ときどきうざったくなるけど、
本当によくできた妙にリアリティのある話だなと思いました。
魅力ある人物だとは私は思わないけど(気が合わないわー)、
考え方の近い人は現実にいると思うし、
自分は当時、民主的な選挙で選ばれたのだ、という主張も
たしかにその通りではあるよね、などと納得するところも多く、
極右政党の事務所にテレビカメラを連れて突撃インタビューに行く場面など、
エンタテインメント小説として十分に楽しめるブラックコメディーなお話でした。
- 作者: ティムール・ヴェルメシュ
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2016/04/23
- メディア: ペーパーバック
- 作者: ティムール ヴェルメシュ
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2016/04/23
- メディア: ペーパーバック