「砂の女」
安部公房の「砂の女」。
すごく有名な小説ですけど未読でした。
ちょうど、ものすごく風の強い日に読んだんです。
風のビュービュー吹く音を聞きながら読んだらもう怖いのなんのって。
ずっと昔この小説の紹介で、
妖艶な女が蟻地獄の底にひそんで男を捕らえる幻想的な話、
というのをどこかで読んだ気がするのですが、
そういう話かと思って読み進めたら、
思ってたのと全然違った。
映画が作られてるらしいので、映画版の評だったのかも。
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都会からやってきた主人公の男が囚われる。
土地の老人に騙されて、脱出不可能な家で
逃げられない状況になるのです。
苛烈な自然環境での貧しい暮らしと、
田舎の小さな町での閉ざされた慣習と、
苦しい生活に耐えるしかない素朴で哀れな女と、
腐りそうな倒壊しそうな木造の家。
男は何とか逃げようと策をめぐらす。
はたして男はそこから逃げることができるのか。
日々積もる砂をスコップで毎日掘らないといけないとか、
砂が吹き荒れて前がよく見えないような描写には
札幌(前の前の前の家)での雪を思い出しました。
その日を生きていくのが精一杯で、
そこから逃げ出すためのお金もエネルギーも無い、
という「女」の状況には説得力がありました。
で。
主人公の男が逃げ出せるのかどうかが問題なんだけど、
なぜ主人公は自信満々に助けてもらえると思ってるのかなと
途中でハラハラしてしまいました。
だって最初から失踪させるつもりなんですよ。
一生砂を掘らせる奴隷にするんだから、
死んでしまえばそのまま砂に埋めてしまえばいいじゃないですか。
女の死んだ夫と子供は埋まったままなんでしょう?
インテリ面して無駄なあがきを続ける男と、
その間も黙々と生きていくための労働を続ける女。
こういう場所では腕力と体力と地縁が大事ですよね。
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この小説を学生時代に読まなくて良かった。
若いときに読んでいたら、
労働に対する認識が悪い方に変わったかもしれない。
定年後は温暖で暮らしやすく、
そこそこ都会な場所に住みたいな。